量子コンピュータは、ある種の問題において、古典的な計算に比べて大幅な高速化を実現することが期待されています。しかし、誤り耐性機能を持った量子回路の実装は未だ困難です。Yantao Wu氏(理研iTHEMS)とIBMおよびUC Berkeleyのチームが共同で発表した最近の論文では、古典コンピュータでは不可能な規模の問題について、誤り耐性機能を持たない量子コンピュータ(IBM-Q 127量子ビット)を用いた計算が可能であることを実証しました。 横磁場イジング模型の時間ダイナミクスにおいて強い量子もつれがある状態では、テンソルネットワーク法などの古典的な近似計算手法が破綻しているにもかかわらず、量子コンピュータが正しい結果を与えることが示されました。これは、誤り訂正機能が無い現在においても、量子コンピュータの有用性を実証するものです。同時に、今回の量子コンピュータの計算結果は、古典的近似計算手法の開発を促進するものであり、量子計算と古典計算の両方のアプローチの進展に寄与します。

Reference

  1. Youngseok Kim, Andrew Eddins, Sajant Anand, Ken Xuan Wei, Ewout van den Berg, Sami Rosenblatt, Hasan Nayfeh, Yantao Wu, Michael Zaletel, Kristan Temme & Abhinav Kandala, Evidence for the utility of quantum computing before fault tolerance, Nature volume 618, pages 500–505 (2023), doi: 10.1038/s41586-023-06096-3

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