ブラックホールの乱れた「和音」の響き―時空の大域的構造を捉えた重力波波形の構築―
2025-07-28
プレスリリース
あらゆる楽器に固有の音色があるように、ブラックホールは特徴的な周波数と減衰率(準固有振動)をもつ時空のさざなみ(重力波)を放射します。ブラックホール分光法は、このリングダウン重力波からブラックホールの性質を読み解く手法であり、音だけで楽器を識別することに似ています。しかし、実際の重力波は準固有振動だけでは記述しきれず、時空の大域的構造を反映する「テイル重力波」と呼ばれるゆっくりと減衰する成分も含まれます。また、準固有振動数の構造は、わずかな外的環境の変化に敏感で乱れやすいことも指摘されていました。これらは、ブラックホール分光法の有用さに対する問いを投げかけます。
大下翔誉 客員研究員を含む研究グループは、この課題を逆手に取り、小さな外的環境で乱れた準固有振動の集合を取り扱うことで、テイル重力波を含む重力波波形を再構成できることを明らかにしました。この発見は、より高精度な重力波解析技術の発展にもつながると期待されます。
Reference
- Naritaka Oshita, Emanuele Berti, Vitor Cardoso, Unstable Chords and Destructive Resonant Excitation of Black Hole Quasinormal Modes, Physical Review Letters, 135, 3, 031401 (2025)