iTHEMSが孫正義育英財団生との交流会を開催しました
理化学研究所(理研)数理創造プログラム(以下、iTHEMS)は12月7日(木)に、将来を担う若手人材育成の一環で、孫正義育英財団生との交流イベントを初めて開催しました。数学や物理、生物、AI等に興味を持つ9歳から26歳までの財団生13名と、iTHEMS研究者10名が参加し、ハイレベルなディスカッションを繰り広げ、交流を深めました。
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理化学研究所(理研)数理創造プログラム1(以下、iTHEMS)は12月7日(木)に、将来を担う若手人材育成の一環で、孫正義育英財団生2との交流イベントを初めて開催しました。数学や物理、生物、AI等に興味を持つ9歳から26歳までの財団生13名と、iTHEMS研究者10名が参加し、ハイレベルなディスカッションを繰り広げ、交流を深めました。
iTHEMSからは冒頭、長瀧 重博 副プログラムディレクターがiTHEMSの概要を紹介し、続いて佐野 岳人 基礎科学特別研究員が自身の研究テーマである低次元トポロジーと関連させつつ、不変量とカテゴリ化に関する考え方を紹介しました3。続いて孫正義育英財団生4名が、数学や生物学、量子物理など自身が進めている研究についてプレゼンテーションを行いました。このうち参加者の中で最年少9歳の財団生は、ネイピア数(e=2.718…)に関する自身の研究成果を紹介しました。ネイピア数に収束する数列に関する定理を、旅行の最終日に突然見つけた感激を交えて話す姿に、研究者も聞き入っていました。量子物理を専門とする13歳の財団生(博士課程大学院生)は、ポーラロンと呼ばれる準粒子に関する自身の研究成果を紹介しました。ボーズ・アインシュタイン凝縮中の不純物として理解されるボーズ・ポーラロンは、個体ポーラロンの量子シミュレーションへの応用が注目されています。13歳の財団生はその実験的実現の可能性やボーズ・ポラロンのより正確な理論的記述法について、自身の研究の現状を紹介してくれました。一研究者として話す財団生の成果発表に、研究者から称賛の拍手が送られました。
フリータイムでは、完全数の一般化に関する議論4から、mRNAに転写された細胞核配列データの解読技術(snRNA-seq)に関する議論5に至るまで、多岐に渡るテーマについて財団生と研究者が自由で活発な議論を交わしました。イベント終了後、参加した孫正義育英財団生から次の開催を期待するメッセージを受け取る一方、iTHEMS研究者からも孫正義育英財団生から刺激を受けたとの感想が挙がりました。iTHEMSは、未来を担う若手人材の育成に今後も貢献して参ります。
- 理研数理創造プログラム
2016年設立。理論科学・数学・計算科学の研究者が、「数理」を軸とする手法を用いて、宇宙・物質・生命の解明や、社会における基本問題の解決を図る国際研究拠点。 - 孫正義育英財団
高い志と異能を持つ若者に自らの才能を開花できる環境を提供し、人類の未来に貢献することを目的に、ソフトバンクグループ株式会社 孫 正義 代表取締役 会長兼社長執行役員が設立した財団。財団が国際公募・選考を経て認定した財団生に、共同施設の提供、イベント開催、支援金の給付などを行っている。 - 「不変量」と「カテゴリ化」
例として、「位相的不変量」であるオイラー数(整数)をホモロジー群(次数付きベクトル空間)に改良するプロセスは、現代的な視点からは「カテゴリ化」として解釈できる。2000年頃「カテゴリ化」は数学、特に結び目理論において理論の発展の一つの指針となった。1980年代に V. Jones によって導入された結び目不変量である Jones (ジョーンズ) 多項式は、2000年に M. Khovanov によって二重次数つきのホモロジー群としてカテゴリ化され、現在は Khovanov (ホバノフ) ホモロジーと呼ばれている。 - 完全数
交流会では、財団生(13歳)による完全数に関する講演があった。正の整数の範囲である整数のすべての約数(自分自身は含まない)を足し合わせたものがもとの数に一致するとき、その数を完全数という。1万以下の完全数は6、28、496、8128の4つのみである。また、奇数の完全数の存在は知られていない。財団生(13歳)は「φ^2完全数」という概念を導入し、偶数の完全数は全てφ^2完全数であるだけでなく、実は奇数のφ^2完全数も存在することを見出し、またいくつかの特殊なφ^2完全数の族が存在することを示した。 - snRNA-seq
Single-nuclei RNA sequencing (snRNA-seq) は、個々の細胞核からmRNAへ転写された配列データを得るために開発された手法である。財団生(20歳)は、現在800人以上の患者の血液サンプルを用いて、snRNA-seqによるデータ分析を行っている。交流会では、その財団生による講演が行われ、snRNA-seqの概要と適用限界、データクリーニングの手順、このデータセットで今後取り組める可能性のあるテーマが紹介された。