エクサスケール・スーパーコンピュータとAIを駆使した天の川銀河シミュレーションが2026年ゴードン・ベル賞ファイナリストに選出
理化学研究所(理研)数理創造研究センター(iTHEMS)数理基礎部門の平島 敬也 基礎科学特別研究員、東京大学 大学院理学系研究科の藤井 通子 教授、森脇 可奈 助教、原田 直人 特任研究員、同情報基盤センター 三木 洋平 准教授、 神戸大学 大学院理学研究科の斎藤 貴之 准教授、牧野 淳一郎 特命教授、フラットアイアン研究所 デニス・ボルウェグ スタッフ・エンジニア、筑波大学 計算科学研究センターの吉川 耕司 准教授、東北公益文科大学 公益学部 公益学科の平居 悠 講師、北海道大学 大学院理学研究院 岡本 崇 教授、バルセロナ大学 宇宙科学研究所 朝野 哲郎 研究員らの国際共同研究グループによる、複数のGPUスーパーコンピュータを用いた超大規模な天の川銀河シミュレーションの研究成果が、米国計算機学会(ACM)の2026年ゴードン・ベル賞の最終候補(ファイナリスト)に選出されました。ゴードン・ベル賞は、高性能並列計算を科学・技術分野に応用し、特に顕著な成果を上げた研究グループに与えられる、高性能計算(HPC)分野を代表する賞です。
本研究では、Intel製GPUを搭載した米国アルゴンヌ国立研究所(ANL)の「Aurora」、AMD製GPUを搭載した米国オークリッジ国立研究所(ORNL)の「Frontier」、NVIDIA製GPUを搭載したドイツのユーリッヒ研究センター(FZJ)の「JUPITER」という、異なるGPUアーキテクチャを持つ3種類のエクサスケール・スーパーコンピュータ上で、超高解像度な天の川銀河シミュレーションを実行しました。Auroraでは10,040ノードを用いて4.8兆個の粒子を計算し、1秒間に最大1,440億個の粒子を処理するとともに、重力計算で976ペタフロップスの演算性能を達成しました。一方、Frontierでは本研究で最大となる5.4兆個の粒子を用いたシミュレーションを実現しました。またJUPITERでは5,184ノードで1秒間に1,350億個の粒子を処理し、Auroraの約半数のノード数でそれに迫る高い処理性能を達成しました。
さらに、AIで超新星爆発後のガス膨張を予測するサロゲートモデルを導入し、局所的な計算量の増加を抑えることで、シミュレーションの効率化を行いました。その結果、GPUベンダーや計算機アーキテクチャの異なる3つのエクサスケール計算機を用いて、その全てで天の川銀河の星を一つ一つまで再現したシミュレーションの実行に成功しました。これにより、将来の多様なエクサスケール計算機を活用し、天の川銀河の形成・進化を星一つ一つのスケールから追跡する超高解像度シミュレーションへの道を開きました。
なお、ゴードン・ベル賞の受賞者は、米国イリノイ州シカゴで2026年11月15日から20日に開催される国際会議「SC26(The International Conference for High Performance Computing, Networking, Storage, and Analysis)」において発表される予定です。

国際共同研究グループ
理化学研究所 数理創造研究センター 数理基礎部門
基礎科学特別研究員 平島 敬也(ヒラシマ・ケイヤ)
東京大学 大学院理学系研究科
教授 藤井 通子(フジイ・ミチコ)
特任研究員 原田 直人(ハラダ・ナオト)
助教 森脇 可奈(モリワキ・カナ)
同 情報基盤センター
准教授 三木 洋平 (ミキ・ヨウヘイ)
神戸大学 大学院理学研究科
准教授 斎藤 貴之(サイトウ・タカユキ)
特命教授 牧野 淳一郎(マキノ・ジュンイチロウ)
株式会社 Preferred Networks
エンジニア 野村 昴太郎(ノムラ・ケンタロウ)
松江工業高等専門学校 情報工学科
准教授 岩澤 全規(イワサワ・マサキ)
フラットアイアン研究所(Flatiron Institute)サイエンティフィック・コンピューティング・コア (Scientific Computing Core)
HPC Optimization Engineer デニス・ボルウェグ (Dennis Bollweg)
筑波大学 計算科学研究センター
准教授 吉川 耕司(ヨシカワ・コウジ)
バルセロナ大学(スペイン)宇宙科学研究所
研究員 朝野 哲郎(アサノ・テツロウ)
東北公益文科大学 公益学部 公益学科
講師 平居 悠(ヒライ・ユタカ)
北海道大学 大学院理学研究院
教授 岡本 崇(オカモト・タカシ)
エヌビディア(NVIDIA)
エンジニア マシュー・ベッテンコート(Matthew Bettencourt)
エンジニア ローラ・モルゲンシュテルン(Laura Morgenstern)
ユーリヒ・スーパーコンピューティング・センター(Julich Supercomputing Centre)
マティス・ボーデ(Mathis Bode)
ファイナリスト選出のコメント
理化学研究所 数理創造研究センター 数理基礎部門 平島 敬也 基礎科学特別研究員
2020年に東京大学大学院に進学してから取り組んできた研究が、この度ゴードン・ベル賞ファイナリストに選出されたことを大変嬉しく、光栄に思います。この研究の基盤となる銀河シミュレーションコードは、「富岳」をターゲットとした長年にわたる共同研究によって開発されてきました。私は2020年にこのコードを基盤として研究を始め、超新星爆発をはじめとする一つ一つの星の活動が銀河全体の進化に与える影響を直接追跡することを目標としてきました。2023年には超新星爆発のシミュレーションを高速化するAIモデルを発表し、2025年にはAIと組み合わせた銀河シミュレーションを世界で初めて実現するとともに、「富岳」において高い並列化性能を実現しました。今回の研究ではさらなる改良を加え、異なる種類のGPUを搭載した世界各地のエクサスケール・スーパーコンピュータで、これまで以上に大規模で詳細な銀河シミュレーションを実行できるようにしました。これにより、個々の星から銀河全体に至るまでの非常に幅広いスケールをつなぎ、星の活動が我々の住む天の川銀河の進化を形づくる過程を直接追跡できるようになりました。この過程で、現在の拠点である米国・ニューヨークをはじめ世界各地の研究者との共同研究が生まれ、研究グループもより国際的なものへと発展しました。これまで研究を支え、ともに開発を進めてくださった多くの共同研究者の皆様とともに、今回の成果が評価されたことを大変嬉しく思います。
補足説明
- エクサスケール・スーパーコンピュータ
- 1秒間に100京回(10の18乗回)を超える浮動小数点演算が可能なスーパーコンピュータ。
- Aurora
- 米国エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所に設置されたスーパーコンピュータで、Intel製のCPUとGPUを備える。世界4位(TOP500; 2026年9月現在)の計算性能を持つ。
- Frontier
- 米国エネルギー省のオークリッジ国立研究所に設置されたスーパーコンピュータで、AMD製のCPUとGPUを備える。2022年に世界で初めて「エクサスケール」の計算性能を達成した。世界3位(TOP500; 2026年9月現在)の計算性能を持つ。
- JUPITER
- ドイツのユーリッヒ研究センターに設置された、ヨーロッパ初の「エクサスケール」スーパーコンピュータである。世界5位(TOP500; 2026年9月現在)の計算性能を持つ。
- 超新星爆発
- 大質量の星が一生を終えるときに起こる壮大な爆発現象である。この爆発によって星の内部でつくられた重い元素が宇宙空間に放出され、新たな星や惑星の材料となる。こうして生まれた元素が銀河の進化を促し、多様な天体の形成を支えている。
- 星間物質
- 銀河の中で星と星の間を満たしているガスや塵(ちり)の総称である。一見何もないように見える宇宙空間にも希薄なガスが広がっており、冷たく密度の高い領域から高温で希薄な領域まで、多様な状態で存在する。星はこの星間物質が集まることで生まれ、超新星爆発や恒星からの放射などによって再びかき混ぜられる。この循環が、新しい星の形成や銀河全体の進化を左右している。
研究支援
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業特別推進研究「集積超伝導分光器技術とデータ科学で切り拓くサブミリ波輝線強度マッピングの新展開(研究代表者:河野孝太郎、24H00004)」、同基盤研究(A)「革新的運動論的数値シミュレーションによる宇宙構造形成と天体プラズマの新展開(研究代表者:吉川耕司、25H00625)」「シミュレーションで探る宇宙最初期の星団形成と銀河形成(研究代表者:藤井通子、25H00664)」「活動銀河核の5次元構造とその起源:多波長精密分光による解明(研究代表者:和田桂一、25H00671)」、同基盤研究(B)「銀河系初期世代星の窒素組成で探る大質量星の進化・元素合成と初期の銀河化学進化(研究代表者:青木和光、25K01046)」「高赤方偏移超大質量ブラックホール形成の第一原理的輻射流体シミュレーション(研究代表者:岡本崇、26K00730)」「星団的高密度環境が駆動する高赤方偏移銀河形成機序の解明(研究代表者:斎藤貴之、26K00744)」、同基盤研究(C)「球状星団の元素組成異常の起源の解明(研究代表者:斎藤貴之、21K03614)」「銀河中心考古学:天の川銀河の棒状構造はいつ形成され、どのように進化してきたのか?(研究代表者:馬場淳一、21K03633)」「次世代広域観測に向けた銀河形成モデルの研究(研究代表者:森脇可奈、23K03446)」「銀震学:衛星銀河はどのように天の川銀河を震わせ、星をつくったのか?(研究代表者:馬場淳一、24K07095)」「銀河形成シミュレーションで拓く銀河考古学(研究代表者:平居悠、26K07153)」、同国際共同研究加速基金(国際先導研究)「超伝導工学・大規模数値計算・データ科学で解明する宇宙最初期の重元素生成過程(研究代表者:河野孝太郎、23K20035)」、同特別研究員奨励費「数値シミュレーションと位置天文学観測データを用いた銀河動力学の研究(研究代表者:朝野哲郎、22J11943)」「深層学習による映像予測を用いた銀河形成シミュレーションの高解像度化の研究(研究代表者:平島敬也、22KJ1153)」による助成を受けて行われました。
また、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業「AIを組み込んだ新しい銀河シミュレーション(研究代表者:藤井通子、JPMJFR2367)」、日本学術振興会(JSPS)海外特別研究員制度・スペイン科学・イノベーション・大学省およびスペイン国家研究機構(MICIU/AEI、機関識別子:10.13039/501100011033)と欧州連合の欧州地域開発基金(FEDER, UE)が助成する研究課題「PID2024-160244NB-I00」、ならびにバルセロナ大学宇宙科学研究所(ICCUB)の「マリア・デ・マエストゥ」卓越研究ユニットへの助成「CEX2019-000918-M」(朝野哲郎)、文部科学省「富岳」成果創出加速プログラム「シミュレーションとAIの融合で解明する宇宙の構造と進化(JPMXP1020230406)」、理化学研究所基礎科学特別研究員制度(平島敬也)、東京大学卓越研究員制度(藤井通子)による助成・支援を受けて行われました。
大型計算機資源について、理化学研究所計算科学研究センター(課題番号:hp230204、hp240219、hp250186、hp250226、hp260111)、最先端共同HPC基盤施設(JCAHPC)の「大規模HPCチャレンジ」、東京大学情報基盤センターの「若手・女性利用者推薦」、筑波大学、国立天文台、アルゴンヌ・リーダーシップ・コンピューティング施設(ALCF)、オークリッジ・リーダーシップ・コンピューティング施設(OLCF)、サイモンズ財団フラットアイアン研究所のScientific Computing Core、ならびにユーリヒ・スーパーコンピューティング・センター(JSC)のJUPITER Research and Early Access Program(JUREAP)による支援を受けて行われました。さらに、高度情報科学技術研究機構(RIST)の高度化支援により、スーパーコンピュータ「富岳」を用いた全系規模シミュレーションに関する支援を受けました。